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COLUMN

コラム

2026/6/1

インパクト

第3回:不動産におけるポジティブ・インパクトとは?

執筆者:CSRデザイン環境投資顧問株式会社 シニア・リサーチャー & コンサルタント 大下 剛

――インパクトを生み出し、その見える化を支える実践的な枠組みの紹介

 

第2回では、「ポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)」が、従来のリスク・リターンに加えて「インパクト」という第3の軸を取り入れようとする新たな金融の考え方であることを説明しました。では、そのインパクトは、どのように具体化され、どのように評価されるのでしょうか。

 

ここでは、その実践領域の一つとして不動産分野を取り上げ、UNEP FIによる国際的なフレームワークと、国土交通省による実践ガイダンスを手がかりに、インパクトの捉え方と評価・管理の枠組みを整理します。

 

 

1.UNEP FI「ポジティブ・インパクト不動産投資フレームワーク」(2018年)

UNEP FIは2018年、不動産分野におけるポジティブ・インパクト投資の実務的指針として「ポジティブ・インパクト不動産投資フレームワーク」を公表しました。これは2017年に策定された「ポジティブ・インパクト金融原則」を、不動産という具体的なアセットクラスに適用するために整理した実践的なフレームワークです。

 

このフレームワークの特徴は、不動産投資の出発点を「収益性」だけでなく、「社会・環境に対してどのような変化を生み出すか」という点に置いていることにあります。言い換えれば、不動産投資を資産運用という側面だけで捉えるのではなく、社会や環境に影響(インパクト)を及ぼす活動として位置づけている点が重要なポイントです。

 

このフレームワークでは、まず、対象となる資産やプロジェクトが、どのような社会的・環境的課題と関係しているのかを特定し、それらに対してどのような変化(アウトカム)をもたらすのかを明確にします。その上で、経済的なリターンとの関係を踏まえながら、そのインパクトの創出が持続可能であるかを検証します。UNEP FIは、こうした考え方を「インパクトの明確化」「市場水準およびサステナブルなリターン」「インパクトの計測」「追加的な資金および/またはインパクトのフロー」という視点で整理しています。

 

重要なのは、このプロセスが投資の実行時点で完結するものではないという点です。投資実行後も、事前に設定した指標に基づき、インパクトの進捗を継続的にモニタリングし、必要に応じて運用や戦略の見直しを行うことが求められます。ここでは、インパクトを「測定対象」ではなく「管理対象」として扱う視点が示されており、これは第2回で触れたIMM(Impact Measurement & Management)の考え方とも整合します。

 

また、このフレームワークでは「追加性(Additionality)」の考え方が重要な要素として位置づけられています。これは、その投資がなければ実現しなかったであろう価値がどれだけ創出されたかを問う視点であり、既存の取り組みの延長ではなく、新たな価値創出への貢献が重視されています。

 

加えて、このフレームワークでは、ポジティブなインパクトだけでなく、ネガティブなインパクトも同時に把握・管理することが求められています。不動産は環境負荷や地域への影響を伴う資産であるため、これらを含めた影響の全体像を捉えた上で、どのように望ましい方向へ導くかを考えることが前提となります。

 

このように、UNEP FIのフレームワークは、ポジティブ・インパクト不動産投資を「良いことの積み上げ」としてではなく、ポジティブとネガティブの双方を含めたインパクトの全体像を包括的に捉え、それらを継続的に管理していくプロセスとして位置づけている点に特徴があります。

 

 

2.国土交通省「『社会的インパクト不動産』の実践ガイダンス」(2023年)

こうした国際的な考え方を、日本の文脈で具体化したものが、国土交通省の「『社会的インパクト不動産』の実践ガイダンス~評価と対話のツール~」(2023年)です。

 

このガイダンスでは、「社会的インパクト不動産」を、「社会課題の解決を通じて、不動産価値と事業価値の向上を同時に実現する」ものとして位置づけています。ここでは、「社会貢献」と「経済価値」は、対立的に捉えられる別々のものではなく、一体の価値創造プロセスとして統合的に捉えられています。

 

つまり、この実践ガイダンスでは、インパクトの創出は単なるコストではなく、適切に設計・管理されることで、中長期的な収益性や資産価値の向上につながる可能性を持つものとされています。この視点は、インパクトを「付加的な要素」ではなく、事業や不動産マネジメントの中核に組み込んでいくという考え方につながっています。

 

 

3.インパクトの対象:「ヒト・地域・地球」

また、国交省の実践ガイダンスの中核の一つが、不動産が与える影響を「ヒト」「地域」「地球」の3つの対象で整理する視点です。

 

「ヒト」に対しては、建物の快適性や健康性、安全性といった要素が影響を与えます。例えば、空気環境や自然光の確保、バリアフリー設計などは、利用者のウェルビーイングや生産性に直結します。

 

「地域」に対しては、周辺経済への波及効果やコミュニティ形成への寄与が重要になります。不動産は立地に強く依存すると同時に、その立地に影響を与える資産でもあり、その開発や運用は人の流れや地域活動に大きな変化をもたらします。この視点では、こうした地域への影響も含めて評価対象として捉えます。

 

「地球」に対しては、エネルギー消費やCO₂排出量といった環境負荷が主な対象となります。建物のエネルギー性能向上や再生可能エネルギーの活用は、気候変動対応の観点から重要な要素となります。

 

このように、不動産は単一の価値ではなく、ヒト、地域、地球という複数の対象に対して同時に価値を生み出す多層的な資産として捉えられています。

 

 

4.評価とマネジメント:ロジックモデルとKPI

国交省の実践ガイダンスにおいては、「何か良いことをしている」という定性的な説明だけでは「社会的インパクト不動産」の実践としては充分ではないとされています。UNEP FIによるフレームワークと同様に、インパクトを構造的に捉え、それを測定・管理することが求められます。
そのための基本的な考え方として示されているものが「ロジックモデル」です。これは、インプット(事業・投資)からアウトプット(活動)、アウトカム(生じた変化)、そして最終的なインパクト(環境・社会への影響)へと至る因果関係を整理するものです。国交省の実践ガイダンスでは、社会的インパクトが生まれる流れをこれらアクティビティ・アウトプット・アウトカムの関係として整理し、実務上の共通言語として活用することが強く意識されています。

 

例えば、エネルギー性能の高いビルの開発であれば、

設備投資(インプット)→エネルギー効率の高い運用(アウトプット)→CO₂削減や光熱費削減(アウトカム)→気候変動抑制への貢献(インパクト)

といった流れで整理されます。

 

このように因果関係を明確にした上で、可能な限り各段階に対応するKPIを設定し、継続的にモニタリングを行うことが求められます。ここで重要なのは、指標を設定し、データを集めること自体ではなく、その結果を事業改善や意思決定に活用することです。つまり、インパクト評価を単なる報告に終わらせず、実際の運用や判断に組み込んでいくことが求められます。これは、インパクトを「測る」から「活用する」へと発展させる視点を示しています。

 

 

5.不動産に特有の「対話」の重要性

国交省の実践ガイダンスがもう一つ強調しているのが、「対話」の重要性です。
不動産は地域に根ざした資産であるため、投資家・金融機関との関係にとどまらず、地域住民、利用者、行政など多様なステークホルダーとの関係性の中でその価値が形成されます。そのため、投資家・金融機関との「資金対話」に加え、地域との「事業対話」を通じて、ニーズや課題を把握し、価値を共創していくことが重要となります。

 

このような対話のプロセスを通じて、インパクトは一方的に定義されるものではなく、関係者との相互作用の中で具体化されていきます。また、運用開始後も対話を重ねることで、取組内容や評価指標を見直し、インパクトの質と持続性を高めていくことができます。すなわち、不動産における対話とは、インパクトを設計し、実行し、改善していくための重要な実務プロセスであるといえます。

 

 

6.まとめ:不動産はインパクトが発現する「舞台」である

ここまで見てきたように、不動産はインパクトを「測る対象」であると同時に、インパクトを実際に生み出し、社会に定着させ、改善させていく「舞台」としての役割を担います。
PIFという金融の枠組みと、不動産という実体のある資産が結びつくことで、インパクトは理念にとどまらず、具体的な空間やサービスとして社会に現れていきます。そしてそのプロセスを支える共通言語が、今回説明したUNEP FIの国際フレームワークと国土交通省の実践ガイダンスです。

 

 

 

次回予告

次回は、こうした考え方が実際の不動産プロジェクトでどのように活用されているのか、具体的な事例をもとに見ていきます。特に、国交省が2026年3月に公表した「『社会的インパクト不動産』実践事例集」を手かかりに、「社会的インパクト不動産」実践の現場でどのような工夫や論点があるかを紹介します。